大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和29年(れ)24号 判決

本籍

岐阜県加茂郡蘇原村字切井二一〇二番地

住居

東京都目黒区柿ノ木坂三二〇番地

会社員

横家治

明治四四年六月二八日生

右に対する詐欺、経済関係罰則の整備に関する法律違反被告事件について昭和二九年一〇月二九日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人古野周蔵の上告趣意第一点について。

論旨は、経済関係罰則の整備に関する法律は、戦時法規たる色彩を有するから、憲法九条に反し無効であり、したがつて同法律五条一項を適用した原判決は破棄を免れない、と主張する。

しかし、同法律は戦時中たる昭和一九年二月一〇日公布され、同年四月二〇日から施行されたものであるが、規定の内容そのものは、経済統制の円滑な遂行を期するため経済関係罰則の整備、統一等をするためのもので、統制経済の行われる限り、平時にも妥当する規範を定めているものということができる。それゆえ、戦時に制定せられ戦時法規たる色彩があることを理由として違憲を主張する論旨は、その前提を欠くものであつて、上告理由としては不適法であり、採ることを得ない(判例集四巻二号七六頁参照)。

同第二点について。

論旨は、旧刑事訴訟法事件の控訴審及び上告審における審判の特例に関する規則六条は、憲法一四条の平等原則の規定に違反する、と主張する。

しかし、同条は、単に裁判実務の能率のために、不服のない場合における判決書の記載を簡易化したに過ぎないものである。この規定の存するの故に、所論が憶測するように裁判所が事実を争わないように勧めたり、被告人が不本意ながら事実を認めるようになるものとは、到底考えられない。それゆえ、この違憲の主張も前提を欠くものであつて、採ることを得ない。

よつて刑訴施行法三条の二刑訴法四〇八条により主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例